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K e n j i   F i l m  ×  ATOM project

鉄屑の男

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悲願の自社製エンジン開発であったが、至難と言われていた新型バルブの動作試験は失敗の一途を辿り、アルファ製作所の開発資金が底を尽いた。しかし、開発部の都築(伊藤亜斗武)たちは、菅野(三濃川陽介)が設計した新型バルブが完成した場合、特許を取得する可能性あることを知る。
一方、大手エンジンメーカー、スター重工の野村(尾関伸次)から提案された株式譲渡による会社買収に目を背けていた武本社長(水野直)だったが、社員を守るため、かつて己と父の夢であったエンジン開発を手放す覚悟を決めていた。
ある日の終業後、都築たちはスター重工への株式譲渡を食い止めるため、武本に新たな話を持ちかける・・・。

 

アルファセレクションの俳優がお届けする本格オマージュ作品!

※この作品に1〜8話、および最終話はございません。

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伊藤 亜斗武 ・・・都築勇介(アルファ製作所・開発部)
水野 直   ・・・武本紀夫(アルファ製作所・代表)
持永 雄恵  ・・・榊健一(アルファ製作所・開発部)
千葉 誠太郎 ・・・松木丈(アルファ製作所・開発部)


三濃川 陽介 ・・・菅野英司(アルファ製作所・開発部)
犬塚 マサオ ・・・西島透(アルファ製作所・開発部)
竹中 寛幸  ・・・北見幸久(アルファ製作所・営業部)
桜木 梨奈  ・・・笠松舞(アルファ製作所・総務部)


尾関 伸次  ・・・野村良(スター重工・営業部)

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【企画・製作・脚本】

 伊藤 亜斗武
【制作プロデューサー】

 尾関 伸次
【制作応援】

 正木 佐和

 


 挿入曲 「Pride/Prismatic Tone」
 

【ロケーション協力】

 有限会社 梅原鉄工所

 雷鳥社


【衣裳協力】

 合同会社inf

 車杏里
 

【特別協力】

 株式会社アルファセレクション

 KATAKOTOファイブ

【撮影・編集・監督】

 井上 賢嗣

■株式会社 アルファセレクション
http://www.a-selection-pro.jp/

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この企画は、僕が言い出した案が「ATOM project」と銘打つ形となり、「アルファセレクションの俳優のみで作り上げる映像作品」として公開前から宣伝させていただいておりました。ですが、あの時僕が発言したのは「僕のために協力してくれませんか」ではなく「僕はこういう自分のムービーが欲しい」というものでした。

僕の事をご存じの方はお分かりの通りかと思いますが、僕はアルファセレクションに所属して間もない人間です。

所属してたった5日しか経ってないとある会議での発言でした。

そして、いざ企画が動き出そうとしたとき、目の前には賛同してくださる皆様がいらっしゃいました。あの会議で僕の発言を聞いていた方、全員がいらっしゃいました。

なので、俳優だけで作ったこの作品は、皆さんによる、本当の意味での「俳優のみで作った」作品なのです。

 

この作品は、僕にとっては自身のプロモーションムービーというだけでなく、この事務所で出会った皆様とのドキュメントともいえます。

出演者紹介とはほど遠い文章かも知れませんが、そんな僕なりの、皆様の紹介とさせて頂きたいと思います。

撮影・編集・監督 井上賢嗣

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例の発言をした会議の帰り道、「撮りましょう」と井上さんが声を掛けてくださったのが、全ての始まりです。もちろん、井上さんともこの日が初めましての関係でした。

なぜ撮るのか、どう撮るのか、何を撮りたいのか、思い切って全てを伝えました。後日皆様から「そんなの関係ない」と言われましたが、やはり新米の立場でベラベラとやりたいことを喋り尽くすのは勇気がいりました。

全てを聞いた井上さんは、先ほどより大きな声で「撮りましょう!」と言ってくださいました。

とはいえ、この時点ではどなたが賛同してくださるのか、どれぐらいの時間や手間暇がかかるのか分からなかったため、井上さんと僕のふたりで試験的に撮ってみようと話していました。この時は、僕と誰かの二人芝居を井上さんが撮るという構成でした。

 

数週間後、体制が広がり、今作の「鉄屑の男」の原形ができてきました。しかしこの時もまだ、本編でメインの会話が行われている、都築、榊、松木、武本、野村の5人のシーンのみでした。

さらに1週間後、皆様にご出演いただけることが決まり、本来構想していた、菅野、西島、北見、笠松のシーンも作ることができました。

 

事前のカメリハ、ロケハンを重ね、井上さんとは完成図を何度も話し合いました。同じオーディションを受けていた日も、会場の近くで待ち合わせをしては喫茶店で話し合いのお時間を割いて下さいました。井上さんの貴重なお時間を、たくさんいただいてしまいました。

「これでイメージができました。撮影当日は伊藤さんは演者なので、僕に任せて下さい。」この言葉を聞いたとき、僕は赤坂のカフェで半泣きでした。

撮影日は、仰っていたお言葉の通り、井上さんが現場の舵をとってくださいました。撮影後の編集期間は、僕のワガママを何度も聞いてくださり、修正に修正を重ねて、今作、「鉄屑の男」が出来上がりました。

 

ちなみにメイキング映像の作成は、僕のオーダーや物欲しさによるものではなく、全て井上さんが自ら作って下さった独自のクリエイトです。ここだけの話、撮影日前までは「当日はそんなことやってる暇ありませんよ」と仰っておりました。しかし撮影現場では、カットがかかってもずっとカメラを手に持っている井上さんがいらっしゃいました。このメイキング映像を見たとき、これを含めて今回の作品だと強く思いました。

 

今回、発案こそ僕でしたが、完成されたあの映像の土台となる構成や世界観は、紛れもなく、井上さんの愛から成るものです。

野村良 役・制作プロデューサー 尾関伸次

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皆様に初めましての挨拶をした例の会議の1週間ほど前、機会があって尾関さんにはお先に挨拶をさせていただいておりました。冷静で、情熱的で、僕は初めて会った日に尾関さんが好きになりました。

井上さんと進めていた企画がふたりではなく皆様とシェアすることになったとき、「亜斗武からは言いづらいこともあるだろう」と「なんでも俺に投げていいからね」と仰って下さいました。今思えば、尾関さんはこの時既にプロデューサーを担ってくださっておりました。

撮影スケジュールの香盤表が出来上がり、予算表が出来上がり、衣裳リストやロケマップができあがり、あっという間に本格的な撮影になっていきました。

それだけではありません。シーンで使われた、尾関さん演じる野村が武本に渡す買収のための契約書(中身のページまで作られていました)や竹中さん演じる北見が抱えていた段ボールに貼られた「アルファ製作所」と印字されたシールなど、いわゆる「見えない部分」までこだわり抜いて撮影日を一緒に迎えて下さいました。プロデューサーという立場とはまた別の、「見えない部分」。新築一軒家でいうところの、出来上がった綺麗な建物では見えない、地面の下で支える肝心な骨組みの基礎のような部分…。表現が違うかもしれませんが、僕はこのこだわりを美学と捉え、尊敬と感謝の気持ちでいっぱいでした。

 

メイキング映像でも仰っていた、尾関さんの「準備が楽しくて」というお言葉、あれを聞いたとき、僕はもう言葉になりませんでした。

 

尾関さん演じる野村良は、大手エンジンメーカーであるスター重工の営業マン。自社の事業拡大のために下町の同業中小企業を買収する、いわば悪役です。

本編では一切伝わりませんが、この野村という男、実はこの後の最終回(今作本編が9話のラスト1分という設定です)でアルファ製作所を救います。

これこそオマージュ、パロディと言われてしまうかもしれませんが、野村は最終回で「この国の伝統ある職人の技術を潰してはならない」と、それまで圧力をかけられていた郷田常務に歯向かい、役員会議にて直々に三木谷社長に熱弁をするのです。最終回の大きな見どころの一つです。

尾関さんに感じていた冷静と情熱。これは野村をお願いする他ないと、書き始めたときから決めていました。

 

同じくメイキング映像で尾関さんや周りがひたすら笑ってテイクを重ねるオフショットがありますが、あれは決して現場の空気が緩かったわけではなく(笑ってしまった理由はとても奥深いのでここでは割愛します)準備期間からプロデューサーとして指揮をとってくださった尾関さんへの、僕はもちろん皆様からの感謝と労いの気持ちがこもった、「鉄屑の男」撮影日の、ラストカットの撮影風景です。

 

井上さんが造られた土台に、尾関さんが骨組みの基礎を建てて下さり、この上に、尾関さんを含めた出演者の皆様のパワーが組み上がっていきました。

いつか「伸次さん」と呼べる日がくることを、密かに願っています。

榊健一 役 持永雄恵

僕の事を以前から知って下さっている方は皆様ご存知ですよね。アルファセレクションで唯一、入所前からお世話になっている持永雄恵さん。知り合ってもう13年でした。
小劇場でも散々お世話になり、僕が以前の事務所にいた頃、お互いどんな仕事をしているかといった話もしょっちゅうしておりました。

この企画を初めて発言したとき、一番最初に、「あ、俺やるやる」と返して下さったのは雄恵さんでした。井上さんが事前のカメリハをやりたいと仰ったときも「あ、俺行きます」と、すぐ返答して下さいました。
あのカメリハ、前夜もその日の夜も撮影で、全然寝てなかったですよね。それでもなんて事ない顔で来てくださる雄恵さんがいました。昔は金髪であんなに恐かったのに。

カメリハでの雄恵さんの芝居を見て、なるほどやっぱりそうやってくるよなぁと頭の中で色々と考えていましたが、本番では僕が引き立つよう、悪目立ちしないように芝居をして下さっていたと、人伝てで聞きました。そんな事せずにぐいぐいのめり込んで来て下さって良かったのですが、その優しさが、嬉しかったです。雄恵さん、十分目立っていましたよ。

雄恵さん演じる榊健一は、開発部でも部下に愛される教育係でもある人物。雄恵さんにこの役をお願いしようと決めた最初のきっかけは、はじめはキャラクター性からでした。
撮影日も皆様から「こんなに作業服似合う人がいるのか」と言われておりましたが、僕は別件で雄恵さんの作業着姿を見ていたことがあり、その姿は想定済みでした。普段は穏やかで、仲間思いで、仕事には厳しく、部下の成長こそが会社の未来なのだというポリシーを持つそのキャラクターを作る上で、就業後でも帽子を被っているその人物像を、雄恵さんと話し合いました。
僕の結婚パーティーで乾杯の挨拶をして下さった、僕の一生の財産である先輩、雄恵さん。

松木丈 役 千葉誠太郎

同じ埼玉出身の千葉さん。例の会議が、もちろん初めましてでした。
カメリハで撮った映像を井上さんが仮編集して皆様に初めて映像としてシェアして下さった日から数日後、とある日のオーディションでご一緒した千葉さんが声を掛けてくださり、深くほっとしたのを覚えています。また違う日では、別件で千葉さんに連絡をしたら、偶然目の前にいらっしゃったという出来事があり、そこから、少しずつ色んなお話をさせていただけるようになりました。

千葉さんは、医者や検事や官僚などの役柄、通称ホワイトカラーがよく似合うよね、といつも周りから言われるそうです。僕も最初そう思いました。清潔感があって、爽やかで凛々しくて気品があって。なので、今作では、「元ホワイトカラー」でもある松木丈を千葉さんにお願いしようと思いました。これも書き始めから決めていました。
千葉さん演じる松木丈は、開発部の将来を担う次世代として期待されている優秀な人物です。
しかし、元は大手メーカーに就職した男。自分の挑戦と夢のため、エリート街道を自ら外れて、アルファ製作所に技術者としてやってきた人物なのです。


撮影当日は、開発部は汚しメイクが施されたのですが、最初にメイクに入られたのが千葉さんでした。鏡を見て顔に汚れを作っていく真剣なその眼に、同じく撮影直前だった僕は、とても安心してしまいました。
松木という役を千葉さんにお願いして、本当に良かったと、千葉さんの後にひとり顔を汚しながら思っていました。

菅野英司 役 三濃川陽介

例の会議に向かう道中、三濃川さんとすれ違いました。昨年のステイホーム中にGenki VOX(アルファセレクションのYouTubeチャンネル)を拝見していたので、すれ違った時はすぐに三濃川さんだと分かりました。僕は人見知りではないのですが、オーラなのか、なぜかその時は声をかけることができませんでした。
そして例の会議でようやく挨拶をさせて頂きました。しかし親交を深めるにはあまりにも時間が足りず、この企画の発言をしたあと僕は勝手に「三濃川さんは乗ってくれないかもしれない」と自信を無くしていました。

※三濃川さんはとてもお優しい素晴らしい方です。


なぜそんなことを思っていたか。今作、三濃川さん演じる菅野英司はとても重要な人物で、この役はぜひ三濃川さんにお願いしたいと思っていたからです。

菅野は4年前、アルファ製作所を一度退社しています。社内一の技術を持つ菅野は、不寛容で社交性に劣るその性格から、榊と衝突した過去もあります。そして、己の能力を過信し、飛び出したのです。誰も止めることはできませんでした。武本も「いつでも戻ってこい」とは言いませんでした。
転職先は会社こそ大きいものの、機械生産による大量生産といったコストパフォーマンスを第一とするメーカー。菅野は悩み抜いた末、武本に頭を下げに戻ってきました。そして、もう一度「技術者」としてのチャンスを貰った菅野は内面から生まれ変わろうとしていました。武本に、社員の皆に、アルファ製作所に、計り知れない恩を感じ、今作のメインストーリーである自社製エンジン開発の、最も開発が至難と言われる新型エンジンバルブの開発に、自ら名乗り出たのです。
あの時、道で話しかけられなかった三濃川さんのオーラ。(※三濃川さんは温かい心を持った素晴らしい方です)あのオーラを持ち、恩を感じながらもそれを周りに表現することができず、仕事で返そうとする姿。そしてこの開発部で「技術者」としての自分の生きがいを探している菅野という人物は、絶対に三濃川さんに演じていただきたかったのです。

出演が決まってからは、会うたびに菅野という人物について話し合いました。主演映画「クローゼット」の上映、しかもトークイベントもある日だというのに、上映開始直前まで話していました。真っ正直に向き合ってくださるその姿を見て、菅野を演じて下さる喜びが溢れニヤニヤしていました。上映開始1分前でした。

撮影当日。朝早く、忘れ物がないかなどヒヤヒヤしながら現場に移動している時、三濃川さんから1本のLINEが届きました。エールを下さったのです。舞台でいう初日祝い…いや、それとは全く違った嬉しさが込み上げました。大丈夫。今日は成功する。そう思えました。


さらに三濃川さんは、明らかに昼入りで十分間に合う出番なのに、朝一番から撮影現場にいらっしゃいました。あれだけ役作りに対して熱を持って下さっていたのに、午前中はお手伝いに徹して下さっていたのです。
僕の三濃川さんへの一方的な第一印象がありましたが、三濃川さんのお人柄は、芝居や現場に真摯に向き合う、俳優としてとても素敵なものでした。これからも勉強させていただきます。

 

西島透 役 犬塚マサオ

例の会議で、犬塚さんにご挨拶はできたものの、いらっしゃった皆様の中で一番お話しができず終いだったかもしれません。これは僕の至らぬ部分です。
皆様のご出演が決まったのはとある夜のzoomでの僕からの企画説明だったのですが、その日も犬塚さんのスケジュールが合わずお話をすることができませんでした。その後、出演が決まりましたが、犬塚さんに演じていただきたかった西島透を、どういう人物像にするか、とても考えました。僕の中でのイメージはありましたが、犬塚さんの魅力を描写するにはどんな西島がいいのか考えました。


西島透は、開発部の人間ではありますが、松木や菅野とは役割が違い、製作所内の開発機器や試験機、そして特許に関する頭脳に長けた人物です。9話のラスト1分である今作より前、第5話〜6話で一部上場を目前とするエンジンメーカー、DNF精機からヘッドハンティングを受けます。5話〜6話は存在しないので話してしまいますが、西島はDNF精機の高待遇に対し、全く興味を持ちません。アルファ製作所の工場の機器、匂い、慣れ親しんだ作業着に愛着を持つ男です。さらに、新型エンジンバルブの開発に自ら志願した菅野の思いに心を打たれ、西島は自分が持つ全ての知恵を菅野に注ぎ込みます。
悔しさを分け合い、「惜しいな」と励まし、喜びを共感し、「よくやったな」と褒め称える西島の姿を描きたかったのです。
僕は、犬塚さんが出演する映像を見漁りました。すると、西島を演じる犬塚さんの姿がスッと胸に落ちてきました。もちろん偉そうなことを申し上げているわけではありません。僕がそれまでイメージしていた西島より、はるかに良い西島になると感心しました。どの映像のどのシーンという具体的なものではなく、恐らくそれぞれの役を演じていらっしゃる犬塚さんご本人のエネルギーのようなものでした。

撮影当日、シーンを撮る直前、改めて菅野とのここまでの関係性などをお話しました。
シーンは、菅野との新型バルブの動作試験で、数百回の失敗を繰り返すシーンと、突然訪れる成功の瞬間をおさめた2パターンの描写でした。僕は正直、撮影前までは失敗し悔しがるカットを使う予定だったのですが、成功の瞬間を撮ったシーンを見たとき、膝が落ちるほどの衝撃を受けました。
勿論、失敗するシーンもとてもドラマがあって大好きでした。しかし、成功した瞬間の、合格基準値が映し出された試験モニターを見て思わず声が出る菅野に対し、犬塚さん演じる西島は、モニターを見た後、菅野の顔を見て歓喜していたのです。
あのチェック映像を見た瞬間、僕はもう脱帽でした。膝が落ちるかと思いました。犬塚さんに西島透を演じていただいて、本当に良かったと、膝が落ちました。

北見幸久 役 竹中寛幸

初めてお会いしたのは、僕がアルファセレクションの事務所に初めて伺った日です。その後、ちゃんとにお話をさせていただいたのは例の会議の日でした。休憩中に廊下でふとひとりになった時、竹中さんは何をしにきたわけでもなく廊下に来ててくださり、冷静な意見や個人的な思いを語ってくださいました。先日の忘年会でも、外の空気を吸いに出たとき、ほんとに何をするわけでもなく、竹中さんも外に出て来られ、心地よい静かな口調で、いろんなお話をして下さいました。

今回の撮影では、次に紹介させていただく桜木梨奈さんが、汚しメイクの道具を用意して下さることになっていたのですが、撮影当日、竹中さんは僕たち開発部役の演者たちの汚しメイクを、率先して手伝ってくださいました。事前の打ち合わせでお願いされたわけではないのにです。
カットによって汚しや汗の見え方が変わるのですが、モニターを見て、一度直したメイクも、カメラがまわる寸前に「もうちょっと首元の汗を足そう」などと終日にわたり細部までこだわって下さいました。

 

竹中さんには、北見という役を初めから決めておりました。北見は先代の頃から付き合いのある取引先にも信頼されている人物です。
温厚で穏やかで、親身なその性格は、例の会議で廊下に来て下さった、あの竹中さんしか考えられませんでした。
もちろん北見は温厚なだけでなく、情熱家です。僕が演じた都築とは、毎週末に会社近くの居酒屋で、会社の未来について語り会う仲です。社内や社外の情報共有も重ねています。
北見のシーンは、カメリハやロケハンでも、かなり時間をかけて話し合いを重ねました。なぜなら北見の描写は、技術者たちの思いを運ぶ、アルファ製作所を描く上でとても重要なカットだったからです。その上で、あのシーンの北見は、技術者たちの思いだけでなく、中堅メーカーからアルファ製作所の手作業工程を笑われたことによる闘争心を加えています。北見の男としてのプライドを見せるシーンにしたかったのです。


北見の撮影は、撮影日のファーストカットでした。
皆様がスタンバイに入られるより早い時間から、井上さんと僕と3人で、屋外で走り回りました。あの寒空の中、汗を作る霧吹きを何度もかけさせて頂きました。とても寒かったと思います。日が昇り、その汗を光らせながら走る竹中さんの顔が、とても格好良かったです。
全シーンが撮り終わる夜まで作業着を着て下さっていた竹中さんが、大好きでした。

笠松舞 役 桜木梨奈

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例の会議で、隣の席だった桜木梨奈さん。
「なんとお呼びすれば宜しいでしょうか?梨奈さんで大丈夫でしょうか?」「あ、はい。」これが挨拶の後の最初の会話でした。
このやりとりに特に理由はありませんでしたが、その流れで少しお話をして、自然と梨奈さんと呼べるようになった後、事務所の皆様が「桜木さん」と呼んでいるのを聞いて、自分がキモいと思いました。後には引けず、今も梨奈さんと呼んでいます。
梨奈さんはその日、僕のプロフィールを見て、こういう写真があったら見てみたいなど、色んな提案をして下さいました。率直に嬉しかったです。

今回の企画について井上さんと最初に話した、例の会議の帰り道、実は梨奈さんも一緒でした。3人で話していたのです。まずは試験的に二人でやってみましょう。という井上さんとの話に一緒に向き合ってくださり、「そのストーリーなら(のちの今作)男臭くやりましょうよ」「私がいつか参加できるなら、例えば亜斗武さんがこういう役のときに」など、アイデアをたくさん頂きました。
なので、この企画がスタートする瞬間は、実は梨奈さんのエネルギーも大いにあったのです。

 

今回の企画で、僕が梨奈さんに対し一番印象的だったのは、皆様への企画説明をしたzoom会議での一コマです。
作品のシーンは6月下旬の初夏、撮影は12月ということで、夏の作業場の、しかも就業後のギトギトの脂汗や汚れメイクを施す必要があり、メイク案を皆で出し合っていた時でした。梨奈さんは「こんなのどうですか?」と言って、ご自身の顔を汚し始めました。「こういうパウダーも使えるかもですし、あ、こっちはどう見えますか?」と、どんどん顔に汚しを付け足し、顔が真っ黒になっていきます。
「そんな、申し訳ないですよ」と言いながらも、僕はこの時、梨奈さんが参加して下さって本当に良かったと思いました。もちろん、出演者としてです。カッコつけた言い方かもしれませんが、この「鉄屑の男」というストーリーは、愛あってこそ良い作品になると思っていました。真っ黒な梨奈さんの顔には、愛しかありませんでした。
梨奈さんが、当日汚しメイクを用意して下さることになったのですが、撮影当日はその用意だけではなく、真冬の寒さと乾燥からカットごとに薄れる汗や汚しメイクの塗り足しや、撮影シーンが変わるたびに照明が変わるので、それに合わせて該当者全員の汚れの濃さを調整をしたりと、竹中さんと共に、本物のメイクさんレベルで動いて下さっていました。いえ、普段のメイクさん以上のこだわりでした。

 

梨奈さん演じる笠松舞は、アルファ製作所の総務部、事務の女性社員のひとりです。周りの女性社員との関係も良好です。
通常業務をこなしながら、今作では、菅野が新型エンジンバルブを完成させた際の特許申請書類の準備を行なっています。万が一にも他社がこの新型エンジンバルブに使われるどれか一つの部品の特許を先に取得されてはいけないため、血眼で書類準備を行なっている描写を、今作では描いています。また、笠松は、都築と北見が集う毎週末の酒の席に、このシーンのひと月前から参加しています。
普段は取引明細や請求書のやりとりをする事務職員ですが、アルファ製作所の悲願の自社製エンジン開発と、それによる会社の飛躍に、開発部に負けず劣らずの希望を持っている人物なのです。
特許申請書類の作成は西島に一度断られたのですが、笠松の意欲に西島が根負けし、この業務を行なっています。
また、これも今作で全く描かれておりませんが、笠松は武本紀夫の娘、梨香の大学受験の相談相手でもあります。
情熱的で、負けず嫌いで、社交的で周りからは愛される笠松。この人物を梨奈さんに演じていただけて、本当に嬉しかったです。

武本紀夫 役 水野直

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例の会議でも、後のzoomでも、スケジュールの都合でお会いできなかった水野さん。
武本という大事な役をお願いするにあたり、なんとか挨拶をしなければと思っておりましたが、ようやくお会いできたのはロケハンの時でした。事前に千葉さんから、「会ったらきっと一瞬で好きになりますよ」と言われておりましたが、まさに一瞬でした。優しく、しかし物事を真剣に見つめられていらっしゃる水野さんの目を見て、一瞬で好きになりました。
ロケハンでお会いする前、まだロケ地も衣装の手配も決まってなかった頃、作業着を販売するお店を紹介して下さったり、ロケ地となった梅原鉄工所さんへの交渉、また撮影日のお昼ご飯の手配までして下さいました。

 

撮影日、水野さんがいらっしゃるだけで、皆様の表情が変わるのがすぐに分かりました。とにかく現場では水野さんの存在が士気を高めてくださいました。現場が最後まで盛り上がったのは、水野さんの存在あってのものでした。
少し時間が余ったお昼前、「あのシーンもう一回やらない?」と提案して下さったり、作品のために向き合ってくださったこと、とても嬉しかったです。

 

水野さんに演じていただいたアルファ製作所の社長、武本紀夫は、とても難しい立場にいる人物です。会社は、元は父の義夫が経営していたものでした。義夫は設立当初から、自社製エンジンの開発という夢を抱いており、それは開発のリーダーであった紀夫も同じでした。
しかし6年前、義夫が体調を崩したことがきっかけで、息子の紀夫へとバトンを渡すことになります。世の不況と滞る開発から会社を圧迫させる開発費で、紀夫は窮地に立たされていました。
そんな中、スター重工の野村と出会います。
大手メーカーからの突然のコンタクトに、武本は新しい取引獲得のため、必死で自社の製品や技術を述べていきます。
後日、野村から手渡された封筒に、武本は高揚します。しかし、封の中身は「株式譲渡契約書」。買収案が書かれた書類だったのです。
スター重工の狙いははじめからこれでした。武本は落胆します。しかし、書かれた買収条件を見て、武本の心に迷いが生じはじめます。
アルファ製作所の発行済み全株と買取とは別に、製作所の運用支援金2億円が支払われるというもの。会社と社員、そしてその家族を守る、救いの手のような話でした。3日、5日、1週間、武本は考えました。そして、契約を結ぶことを決めたのです。
今作のシーンで武本が野村に頭を下げたあのシーンは、その結論を口頭で野村に伝えた瞬間です。

 

周りに愛される力、周りを愛す力。
そして誰よりも開発を夢見ていた本人が人のために夢を捨てる覚悟を決めるこの人物は、水野さん以外考えられませんでした。
撮影が終わり、後日お会いした時に水野さんがこんな事を仰っていました。「俺は自分のことを言われるのは構わないけど、人のことを言われるのが嫌なんだ。」
もしかしたら武本紀夫は、水野さんそのものだったのかもしれません。

制作応援 正木佐和

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初めてご挨拶をしたのは、入所して3日後のことです。例の会議より少し前に、正木さんが出演される映画の拝見した夜、トークイベント出演のため来られていた正木さんと上映前にお会いしたときです。
そのトークイベントで、正木さんに物凄く好感を抱いたのを覚えています。物腰が低く、上品な印象でした。しかし、例の会議で改めてお会いしたとき、抱いていた印象とは少し違い、もっと気さくで明るくてたくさん話しかけていただいて、入所したての僕を溶け込ませてくださいました。

僕は名前が名前なので苗字で呼ばれることがほとんどありませんでしたが、アルファセレクションでは主に「伊藤くん」と呼ばれています。しかし正木さんは既に「おいアトム」という感じです。これはとても嬉しいことなのです。
正木さんは今作では、出演ではなく、100%スタッフとしてお手伝いをしてくださる事になりました。当初僕の中では、俳優の皆様に、出演もなくお手伝いだけという考えがなかったので、大変恐縮なことでした。

 

撮影当日、正木さんはカットがかかるたびに僕たちのもとに防寒着を持って駆けつけて下さったり、手持ちの照明が必要なカットでは、カメラの横でハンドランプや蛍光灯を持って下さっていました。
朝一番の北見と笠松のシーン撮影が無事終了し、ここからメインの会話のシーンの準備が始まるというとき、正木さん誰もいないところで僕に「アトム、こっちはいいよ!もう切り替えないと!」と声を掛けて下さいました。分かってはいたものの、ぎりぎりまで切り替えられなかった僕は、この一言で、ここからは役者だと振り切ることができたのです。
後日、正木さんとは「現場でいつか必ず会いましょう」と約束をしました。今作では、正木さんのお人柄を見て、たくさん勉強させていただきました。本当にありがとうございました。

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大変長くなってしまいました。
これが、皆様と出会ったばかりに始まった今回の企画の、僕なりの皆様の紹介です。こんなの誰が最後まで読むんだろう。短くしようとも思いました。しかし、この思いを変えずに省略する文章が思いつきませんでした。

 

僕は今回、皆様から大変多くのことを学びました。この機会と「鉄屑の男」という作品を絶対無駄にしないよう、感謝の気持ちを忘れず、これから更に精進していきたいと思います。
そしてこの企画は、今回こそ僕が言い出した「ATOM project=伊藤亜斗武プロジェクト)でしたが、事務所のプロジェクト全体としては、俳優個々が企画を持ち込み、皆で作っていくというものです。次はどなたかの「◯◯project」と銘打つ形になると思います。これから、第2弾、第3弾と続き、事務所全体が飛躍することを願っています。
まだまだ僕は未熟者ですが、これからもどうか応援宜しくお願い致します。

 

一日早いですが、今年は大変お世話になりました。
夏には久々に舞台にも立ちました。本当にありがとうございました。そして父になりました。家族のため、命をかけて頑張ります。
皆様にとって来年が、素敵な年になります様に。

2021年12月某日

企画・製作・脚本 / 都築勇介 役
伊藤亜斗武

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